COOPER−Sとは、どんな車輌なのでしょうか? COOPER−Sには、COOPER−Sならではの装備がありました。 ここでは、「S」について簡単に説明したいと思います。


まずは、排気量のバリエーションから。 COOPER−Sには3種類の排気量が存在します。 小さい方から970cc、1071cc、そして1275cc。 3種類の排気量に対しブロックはそれぞれ独自の物が製作されました。 俗に言う「Sブロック」です。 それぞれ違う排気量ですが、ボア(シリンダーの直径)は3種類とも同じで、70.64mmです。 同じボアでストロークを変え、970ccでは61.91mm、1071ccでは68.26mm、1275ccは81.33mmとなっています。 下にそれぞれのスペックを記載します。
 
970cc

・ボア×ストローク
  70.64mm×61.91mm
・圧縮比
  10:1
・最高出力
  65HP/6500rpm
・最大トルク
  7.6kg−m/3500rpm
1071cc

・ボア×ストローク
  70.64mm×68.26mm
・圧縮比
  9:1
・最高出力
  68HP/5750rpm
・最大トルク
  8.6kg−m/4500rpm
1275cc

・ボア×ストローク
  70.64mm×81.33mm
・圧縮比
  9.75:1
・最高出力
  75HP/5800rpm
・最大トルク
  11.1kg−m/3000rpm



写真は1071cc


ちなみに、1990年に発売されたCOOPER(通称キャブクーパー)のスペックを下に記載しておきます。 いかにCOOPER−Sが高性能であったか解ると思います。
1271cc(キャブクーパー)

・ボア×ストローク
  70.60×81.20
・圧縮比
  9.6:1
・最高出力
  61HP/5550rpm
・最大トルク
  9.2kg−m/3000rpm


エンジン内部にも、COOPER−Sには特殊な部品等が使用されました。 クランクシャフトはEN40Bスチールに耐久性を向上させる為窒化処理がされた物が使われています。 1275ccでは1966年からクランクシャフトにオイル穴が開いた物(クロスドリルド)も使われました。 カムシャフトを駆動するチェーンはダブルチェーンが使用され、高回転に対応。また、オイル消費に合わせてオイルクーラーも装備されました。 バルブ径も拡大され、素材にもニモニック80という航空機などに使用される物が使われました。 COOPER−Sのシリンダーヘッドで一番特徴的なのは、ヘッドを固定するスタッドボルトが11本である事。 COOPER−S以外のミニは9本のスタッドで固定されています(1275GTを除く)。 ロッカーカバーの両端には、スタッドをかわす為の切り込みも入れられました。 ロッカーアームは鍛造で、バルブスプリングもダブルと、色々な面で高回転、ハイパワーに対応しているのです。


ロッカカバーの切り込み、
スタッドボルト様子が分かる

写真では分かり難いが、
鍛造ロッカーアーム




COOPER−Sのトランスミッションは、実に多彩な仕様がありました。 まず、ギアBOXはすべてのCOOPER−Sでリモートタイプが使用されました。 またギアのタイプが標準のノーマルのタイプと、オプションでクロスミッションを選択する事が可能でした。 ファイナルギアも選択が可能で、標準タイプで5種類、クロスミッションでは7種類の中から選択出来ました。 簡単に下の表にまとめましたのでご覧下さい。

ギア・タイプ

1速 2速 3速 4速 リバース
標準タイプ 3.2:1    1.916:1  1.357:1  1.0:1   3.2:1  
クロスレシオ 2.57:1 1.78:1 1.242:1 1.0:1 2.57:1
標準タイプ ファイナルギア

3.444:1
3.765:1
3.939:1
4.133:1
4.267:1
クロスレシオ ファイナルギア

3.444:1
3.647:1
3.765:1
3.939:1
4.133:1
4.267:1
4.350:1


これだけ多彩なギアが選択出来、それに合わせてスピードメーターのギア比も変更されました。 メーター上にシリアルが書かれ、それを見る事によってギア比を知る事が可能です。 その種類はMK−1では24種類、MK−2およびMK−3では8種類のメーターが存在しました。 各メーターごとにギア比が違うのはもちろん、シフトの目安となるマーキングの位置も違っているのです。 現在販売されているセンターメーターにはこの区別がなく、選択が不可能となっています。 COOPER−Sを入手される場合、このような箇所にも注意が必要となるのです。


(MK−1 1071S)
SN4479/32で
ファイナル3.444
クロスレシオ
マイルメーターという事が解る

(MK−2 1275S)
SN4421/33で
ファイナル3.444
標準ミッション
キロメーター




燃料系統については、 キャブレターがSU1・1/4ツインキャブレター。 これは、細かい変更はあったものの、MK−1〜MK−3まで使用されました。 オプションでセッティング変更を選択する事も可能でした。 また、COOPER−Sはパワーと引き換えに燃費は悪く、対策として当初はオプションで、のちに標準装備として(1966年1月より)ツインタンクが装備されました。 全てのCOOPER−Sはツインタンクだと思われている方もいますが、初期のCOOPER−Sにはシングルタンクの車輌も存在するのです。 


SU1・1/4ツインキャブレター

右側が追加された燃料タンク
トランクボードも幅の狭い物となる




ブレーキもエンジン性能に合わせ強化されました。 フロントはスタンダード・クーパーの7インチから7.5インチに拡大され、ブレーキサーボが標準装備されました。 サーボの装備に合わせてマスターシリンダーも背の高い容量の大きな物が使用されました。 リアのドラムもスペーサー内蔵の厚みのある物が使用されています。


フロント 7.5インチDISK

リア スペーサー付きドラム

左がブレーキマスター


ブレーキの拡大、性能UPに合わせ、ホイールもCOOPER−S専用の物が用意されました。 ホイールに9個の穴を開け冷却効果を高めた俗に言う「Sホイール」です。 標準で3.5インチ幅の物が装備。オプションでは4.5インチ幅の物を選択する事が可能でした。 ホイール中央にははホイールキャップが取り付けられています。


冷却穴の開いたSホイール(スチール)




サスペンション機構は、COOPER−Sには2種類存在しました。 1つはラバーコーン、もう1つがハイドロラスティック。 ラーバーコーンは、ミニが製造終了となるまで使われ続けましたが、ハイドロに関してはMK−3のCOOPER−Sを最後に使用されなくなっています。 ラバーコーン車とハイドロ車ではサブフレームの形状が違い、互換性はありません。 また、ラバーコーンは種類がありませんが、ハイドロの場合、レース用、ラリー用など目的に合わせていくつかの種類がありました。 ラバーコーン車か、ハイドロ車かの区別は、シャーシNOによって可能となっています。


フロント ハイドロ機構
本来ショックは無く、ショックは後付け

シルバーの部分がハイドロ機構(リア)
ヘルパー・スプリングが付きショックは無い




ボディに関しては、COOPER−S特別な部分というのはありません。(基本的な構造部分) エンブレムとしてはクーパーと比較して、MK−1の場合はボンネット、トランクに「S」の文字が追加されただけです。 MK−2になると前後のエンブレムが専用の物となり、MK−3ではリアエンブレムのみ専用の物がつきました。 それ以外では、他のミニと同じだったのです。 しかし、COOPER−Sを手に入れようとなった場合、ボディがCOOPER−Sの物なのか?という事が重要になってきます。 これは、シャーシNOにて判別が可能ですが、現在ではボディとエンジンがマッチしている車輌はかなり希少となっています。

MK−1
AUSTIN

フロントはCOOPERバッチに上に「S」、
リアはCOOPERの右側に「S」が追加される。
リアの「S」は後付けで追加される形で、
エンブレム全体の中心は右にずれる
MORRIS

フロントはAUSTINと同じく上に「S」、
リアもフロント同様、上に「S」が追加。
ちなみに、フロントとリアの「S」は、
同じ物が使用される。


MK−2
MK−2になると前後のエンブレムは
専用の物となる。
写真はAUSTINの物。
MORRISも同様の物で色違いとなるが、
リアのエンブレムは共通。


MK−3
MK−3の場合、フロントエンブレムは通常の
ミニと同じ物。
リアエンブレムのみ専用の物になる。




内装に関しては、MK−1の場合2トーンカラーのシートが装備され、オプションでハイバックシートを選択できました。 MK−2になると内装・シート共に黒1色となり、MK−3も黒で統一されています。 下の写真は、左が標準のシート、右がMK−1オプションのハイバックシートです。

MK−1標準シート

MK−1ハイバックシート(オプション)

COOPER−Sは、ミニの中でも特別なEVOLUTIONモデルであり、よりレースフィールドを意識した車輌です。 970S、1071Sについてはショートストロークで高回転型のエンジンとなっており、ショートストローク型のエンジンはその後作られる事はありませんでした。 1275Sについては、キャブクーパーやインジェクションのクーパーと比較してとても力強く、ほぼ同じ排気量とは思えないようなパワーユニットです。 これは現代のクーパーと違い「S」は材質やチューニング等、こだわって作られた特別な車であるからなのです。 具体的には、まず排気量の違い。 たかだか4ccですが、排気量が大きいのと、ヘッドのチューニング、ポートの加工、カムの違い及び先に述べた材質の違いによる高回転化、キャブレターのツイン化、エグゾーストシステムの違い、ギア比(ファイナル)の変更、そしてパワーウエイトレシオの違い(車重が軽い)と考えます。 しかしCOOPER−Sにもデメリットはあり、車輌の数が少ない事、また一部COOPER−Sだけに使われた部品の入手が難しい(数が少ない、価格が高い)などという部分もあります。

私たちは、COOPER−Sの素晴らしさも然る事ながら、現代のミニでCOOPER−Sのようなフィーリング、パワーを持つエンジンを作りたいと考えています。 キャブクーパーやインジェクション車をベースに、Sに近いパワーユニットを製作し、走らせ、楽しみたいと思っています。 チューニングメニューは考えていますので、今後ホームページ上で紹介できればと思います。

次のページでは実際に乗って走っているCOOPER−Sを紹介したいと思います。 オリジナルの車輌、さらにチューニングをして楽しんでいる車輌、色々な「S」達。 それではじっくりとご覧下さい。